とける

 

久しぶりに1日バイトをしたら、疲れて疲れて、あしが棒切れのようになってしまった。スーパーの飲料品売り場は思ったよりも寒くて冷たくて、シャツ一枚で着たことをすぐに後悔した。おじさんとおばさんの世間話に適当に答えて、小さい子供のいたずらを見て見ぬ振りして、しんどい1日だった。まだ、家につかない。今日初めて会ったおばさんが、今日初めて会った主任の女の人のことを、あの人不倫してるのよ、近づかない方がいいわよ、と言っていて、この、女という底なし沼のような狭い狭いところから、わたしはもう一生出られないのだと思った。

長時間のバイトの日、何度も何度も思い出すのは、彼とからだを重ねた日のことだ。もう切れ切れになった記憶を、なんとか思い起こして貼り合わせて、それっぽいストーリーをつくる。もう夏に入っていたのか、それとも緊張していたからなのか、じっとりと嫌に肌が湿っていた、気がする。わたしも、彼も。なかなか会えない彼を、そうやって記憶の中から引っ張り出して自分を慰めるしかない。寂しいやつだと自分でも思う。うだる夏、とけそうだと言った彼の目が泣いていた。

どうにもならず時が経って、彼と会って、幸せになる。今度は羊を見に行きたかった。馬でもよかった。もこもこした動物に餌を与えながら笑う彼を見たいと思った。それか、ろくろを回すか、絵付け体験をしたかった。非日常を追い求めるのなら、どこまでも先を目指したい。