玄関の扉を開けた時の熱気に、思わずむせ返しそうになった。歩けば歩くほど、肌を焼かれている気になった。冷房を意地でもつけない私鉄の乗客は、全員額にうっすらと汗を滲ませている。大学の最寄駅は、そこから20分近く歩かないと教室までたどり着かない。授業で配られたレジュメが湿気を帯びてしっとりしていた。小太りの教員が冷房のスイッチを入れると、学生は皆安堵して眠りにつく。

 

やりたいことはなんですか、と聞かれて、まあ、楽しいことならなんでも、と答えると渋い顔をされた。もっと具体的にと詰められたが、楽しいことが何なのか自分でもよくわかっていない。

新しいワンピースが欲しい。新しい口紅が欲しい。心が軽くなるようなサンダルを履きたい。明日も頑張ろうって思いながら眠れる枕。過剰なほどの愛情。

 

太陽の光にむせ返る。視界いっぱいのひなたは、目線を落としても迫ってくる。

楽しいことを好きなだけ。わからん。意味もない。