延々歩く

図書館に閉館時間まで居座った。帰り、駅から家まで歩く。裏毛のスウェットにコーデュロイ上着を重ねているのに、繊維の間から冷気が入り込んでいるのか歯が鳴るほどに寒かった。ここは民家も街灯も少ないから、星がきれいに見える。プラネタリウムが好きで月に一度は通っていた時期もあったくせに、オリオン座以外満足に星座が分からない。

眉を脱色した。身体用の脱色クリームを綿棒で眉に乗せ、30分待ってティッシュでふき取る。その間に爪を塗った。透明と曇り空の間のような、薄く透き通ったブルーグレイ。つややかな爪を見て満足した。眉はまだらに脱色され、失敗した。

指が細いというと、そんなことないよ、君の方がほそいよ、とごく自然に手のひらを合わせる。わたしより一回り大きい骨ばってた手はひんやりと冷たかった。

指がきれいだと言われたことがうれしくて、良いハンドクリームを買った。いつも買っているものより3倍は高いが、その分保湿力も香りもよいので人気があるもの。

暇があれば水を飲んだ。日常的な水分補給のための飲み物として水を飲むようになったのは、水が一番身体に良く、肌がきれいになるとSNSで見かけたからだ。一日2リットル飲むと痩せるらしい。本当かは知らないが、こまめな水分補給が体に悪影響を及ぼすわけもないので意識的に飲んでいた。

作業をするとき、ネットでダウンロードした一周3分ほどの雨音を何度も繰り返して聴いている。集中力が高まるらしいが効果を感じることは特になく、ただ、他人のおしゃべりの中や、サイレントスペースで一切の雑音のない空間で手を動かすよりも、いくらかは安心感があり、落ち着いて作業できた。

来ないとわかっていながら、図書館の自動ドアの開閉の音を聞くたびに横目で見てしまう。もうある種の病気みたいだと思った。電車に乗っていても、大学を歩いていても、意味もなく君を探してしまう。異常だと思う。

三階まで続く階段が発光して見えた。橙の灯が点いていると思ったら、陽の光が踊り場いっぱいに差し込んでいるだけだった。図書館でクッキー食べたらバレて怒られた。夜に友達と電話した。着地点の見えない話は低空飛行でおもしろい。

だれにも頼らず一人で生きる友達。姿勢のよさに憧れている。自分の足で生きるということは一番大切だと思っている。ずっと。