かっちゃんへ

ポットに注いだあったかい緑茶の、冷め切るまでの時間が早くなった。朝、肌寒くて目を覚ました。目に映る植物の色が少しずつ色あせてきた。

 ずっと優しいままでいたい。優しいひとや音楽、文章に出会ったときはこのまま自分が正しいひとのままでいられるんじゃないかと思う。でも、次の日、そのまた次の日には今日の自分と同じになっていて、上司も同期も客もみんな敵になって、あー、なんか死にたいなって思いながら朝起きて顔を洗う。勝手に不幸になってるらしい。身近な幸福に目を向けろっていろんな誰かに言われる毎日です。

 幼馴染4人と一泊二日で旅行した。そのうち一人は保育園から一緒で、18年ずっと関係を持ってる友達。何も計画せずに深夜に高速を走って、寂れた大きな公園の、スワンボートに乗り込んだ。薄汚く淀んだ湖のふちに沿って3度回った。水面がしぶきをあげて光っていた。台風が来るからと、天気予報は百パーセントの雨予報だったくせして、終わってみればその日は今月の最高気温をたたき出すほどの猛暑日だった。温泉に入って、ソフトクリームを食べて、布団を並べて雑魚寝した。恋愛話になったけど全員が全員、お互いの恋愛に興味がなくてすぐに眠った。

 朝、もう一度温泉に入って綺麗に身支度をして宿を出た。瀬戸内海見ようよって行きたいねって言って、また車を走らせる。砂浜に足がとられる。波は炭酸水みたいに泡立っている。

 化粧うまくなった。当たり障りのない人付き合いや先輩の顔の立て方を覚えた。自分のポジションを見つけて、毎日どうにかこうにかやり過ごしている。死にたくないから生きている。そんなことは誰にだって言えないけど。

わたしも君も変わったけど、根っこは全部一緒で、一緒になれば○○小学校出身の田舎で育った子供に戻る。何を考えても何も考えなくてもいい。

 眠るときにゆるくつないだ手。10年前の自然合宿でもこうやって布団を並べて手をつないで眠ったな。彼女の、骨ばった薄い手の感触は変わらない。誕生日おめでとう、遊んでくれてありがとう、幸せになってね。