白い壁

今日は大学の卒業式だった。ゼミや部活でお世話になった先輩たちの、学位書を片手に微笑む姿を見ると、やはり胸が熱くなった。
部活の飲み会で名前も知らない先輩と就職活動について話した。今が一番しんどいと思うけど、頑張って。きっと報われるし、やりたいこともちゃんとわかるよ。ビールを飲んで顔を赤くしながら、自分の就活がどれだけ簡単であったかを雄弁する。熱心な顔をして聞いている。頭の中は、帰りの電車のことでいっぱいになっている。
どうするか。何をやりたいと思っているのか。わからなかった。周りの学生より早い段階で就活は始めていた。つもりだった。完全に油断していた。甘えでもあった。怠惰な自分を許していた。ずっと、思っていた。わたしなら、あの子さえ羨むような企業に入れるだろうと。だって、努力できるし、全国表彰されたこともあるし、しゃべりもうまい。でも、しょせんは井の中の蛙だった。相手の望む答えを返せない。自分のことを話せば話すほど、面接官は顔を曇らせた。この会社に向いてないとメールをもらうまでもなくわかった。お祈りされても何もアクションがなくても、ただただ、無気力になっていった。

認めてほしいのだ。努力できなくても、器量が悪くても、容姿が美しくなくても、ありのままの自分を受け止めてくれる企業。そんなものはあるはずがない。わかっている。わかっていない。君は何がしたいの? 面接練習で何度も何度も何度も、答えてきた文章なのに、白い壁のオフィスで、おじさんと、面と向かって問われると何も答えられなかった。うまく言えるのは、大学名と、名前くらいのものだった。

自分がないといわれる。うるさい。個性なんてくそくらえ。泣きたくないのに。この足はどこに向かってるのか。進んでいる。歩いてはいるのだ。ただ、方向も行先もわからない。それだけ。私より前に生まれたってだけでなんでそんな横柄な態度ができるんだろう。きっといい選択ができるって言った。空になったグラス。赤ら顔。